【人生を決める文理選択】数学苦手でも理系にいくべき?文転や理転は可能?

  • 考察

こんにちは、郷中塾の宮園です。

最近は涼しくなってきましたが、そろそろ高校1年生の最大のイベントである文理選択がはじまりますね。

この選択が、その後の高校生活の勉強内容はもちろん、進学できる大学や学部、さらには将来の職業まで影響を及ぼしますが、皆さんはしっかり自分の人生について考えて選択していますか?

数学が嫌いだけど、ひとまず理系に進もうと思っています
理系に行きたいけど、数学が嫌いなので文系に行きます

毎年のように、「なんとなく」のイメージや、「得意科目だから」といった短絡的な理由だけで、この文理選択の決断を下してしまうケースが後を絶ちません。

今回は、

1.文理選択を失敗した人の事例
2.後悔しない文理選択の方法
3.文転・理転に関する戦略

の3つのトピックについて順番にお話ししていきたいと思います。

数学は苦手だけど、就職に有利そうだし、なんとなく理系に進学しようかな。
文系進学後の夢は無いですが、数学が嫌いなので文系に行きます

この生徒たちのような軽いノリやその場の雰囲気で文理選択をしていませんか?

文理選択は『今後の人生を決める大きな岐路のひとつである』ということを肝に銘じていますか?

確かに、大人になってからでも人生の進む方向を修正することはできますが、文系と理系の壁を越えた選択をする人は少数であり、ほとんどは高校1年生の時の文理選択によって大学の進学先を決め、そしてその大学・学部の枠組みの中で就職先を決めて社会人になっていきます。

ということは、人生を決める大事な1歩目が文理選択なのです。

当塾がこれまで数多くの生徒と向き合ってきた経験から、この文理選択において特に注意すべき「落とし穴」が存在することが明らかになっています。

これらの落とし穴に落ちてしまうと、学年が進むにつれて徐々に学習意欲が低下し、気がつくと希望する進路には進むことが出来ず、将来に絶望した状態で高校を卒業し、八方塞がりの状態で浪人生活に入る可能性すらあります。

まず、これからお話しする第1章と第2章では「文理選択を間違った場合に起こりうるリスク」を具体的な事例を交えながら深く掘り下げ、、実際に自分の文理選択が正しいのか振り返ってみましょう。

 

ということで、まずは第1章と第2章の概要を見ていきます。

【文理選択に存在する「2つの落とし穴」】
第1章:理系選択の闇
<数学が嫌いなのに、なんとなく理系に進学したAくん>
困る男子学生
「理系は就職に有利」「理系は専門職が多く手に職がつきやすい」と、将来を見据えて理系を選択したAくん。しかし、数学が苦手のまま進級したので学校の授業ついていけません。
そして、高校3年生になると数学Ⅲ・Cが出題されない大学を探すはめに…
将来を考えて理系に進んだはずが、苦手な数学のせいで希望する大学の合格レベルに届かず、最終的にはもともと希望してなかった学部を選択するしかありませんでした。

第2章:文系選択の罠
<将来は決まってないけど、数学から逃げて文系選択したBさん>

心配そうな女子高生
「小さい頃の将来の夢は理系だったが、高校数学で挫折したので文系に進む」という選択をしたBさん。今まで文系の大学や就職を考えてなかったので勉強に対するモチベーションも低いままです。
高校3年生になっても、国語の記述や社会科目の暗記が楽しくないので日々の勉強が退屈に…
受験直前になっても自分のしたいことが見つからず、ひとまず受かりそうな大学に進学しましたが、大学でも人生の進む先が見つからず、後悔だけが残る結果となりました。
このような安易な文理選択は、結局問題を先延ばししているだけということが分かりますね。

ここからは、「文理選択の落とし穴」にはまったAくんとBさんの状況を見ていくことで、彼らが直面した厳しい現実、そしてそこから見えてくる教訓を感じてもらえたらと思います。

第1章:数学が苦手なのに「理系」を選んだAくんの物語

第1章−1. 「理系は就職に有利」という呪縛

中学校まで数学が得意だったAくん。

しかし、高校の数学の授業進度が速く、授業の内容を理解するのにギリギリの状態でした。そんな状況の中、毎日のように予習や週末課題に追われ、気がつくと単元テストでは不合格を連発…

高校数学の抽象度と複雑な思考力は、Aくんが中学校の時に経験してきた「解けばわかる」という感覚とはまるで違いました。入学時は平均以上だった学年順位も徐々に下がり、気がついたら学年順位は最下層レベルになっていました。

しかし、Aくんの周りは理系を選択する人が多く、Aくんもその雰囲気に流されるように「理系に行けば就職に困らない」「医療系の国家資格を取れば将来は安泰」といった漠然とした気持ちで『理系』を選択してしまいました。

実際、テレビやニュースでAIやITといった分野が取り上げられ、「理系=将来性がある」というイメージを持っている人が多くいます。

高校2年生になったAくんに、どのような現実が待っているのでしょうか?

第1章−2.理系進学後の「理想と現実」の乖離

理系を選択したAくんを待ち受けていたのは、高校1年生の頃とは比較にならない、はるかに高くそびえる『数学の壁』でした。

高校2年生に進級すると、高校1年生の時よりも難しい内容を勉強しますが、授業の速度は落ちるどころか、たった2週間で1単元が終わるほど加速度的に速くなっていきます。

数学は苦手だけど、正直なんとかなるでしょ…

と思っていましたが、現実は過酷です。

今までの数学が理解できていないAくんにとって、先生が黒板に書く数式や図形は「呪文」のようにしか見えません。

高校の授業は、イチから教えてくれる中学校の授業とは異なり、一方的に先生が説明したり生徒に問題を解説させて終わったりと、学校の授業だけですべてを理解できる形式ではなかったのです。

そして、鶴丸高校や甲南高校などは、理解できていない人を授業中にフォローしてくれるほど甘くありません。

「なぜこの公式を使うのか」
「この図形が示す意味は何なのか」

Aくんは根本的な理解が追いつかないため、応用問題はおろか、基本問題すら解けなくなっていきました。

さらに、理系に進んだAくんには、物理・化学という新たな壁が立ちはだかります。

これらの科目は単なる暗記では対応できず、「複雑な現象や理論を正確に理解し、演習量をこなすことでようやく理解ができる」意外と手間のかかる科目なのです。

問題を解くよりも、理解を優先したいから演習は後回しにしよう…

演習を億劫に感じて後回した結果、高校2年生の夏頃には、授業の復習をしようとしてもそこに書かれている解説が理解できず頭に全く入りません。

「公式を覚えているはずなのに、どうして問題が解けないんだろう?」

高校2年生の冬休みが終わる頃には、解答を見てしまわないと宿題を終えることすらできない状態になってしまいました。

第1章-3.「志望校選択の迷走」と「受験の失敗」

Aくんは高校3年生になり、受験がいよいよ現実味を帯びてくると、焦燥感はピークに達します。

文理選択の時に思い描いていた「九州大学工学部に進学しよう」という目標がありましたが、学校のテストは依然として低迷したまま、進研模試の結果も常にE判定。

とうとう7月の三者面談で学校の先生から、

数学は基礎すら固まっていない状態ので、九州大学工学部は相当厳しいと思います。

と話がありました。

たしかに、多くの理系学部、特に工学系や情報系の学部では、二次試験や個別学力試験で数学III・Cが必須とされており、さらに理科も物理・化学の2科目を課す大学がほとんどです。

Aくんの心の中には、これまで積み上げてきた努力が全て無駄になるような、深い絶望感が押し寄せてきます。

そんな絶望的状況の中、ここから志望校を改めて探さないといけません。

数学Ⅲ・Cが出題されない大学はないか?
理科1科目で受験できる大学はないか?

大慌てで志望校を探しますが、たまに見つかる「数学III・Cを課さない」の情報系学部や「理科1科目」の理系学部は、軒並み高倍率で偏差値も高く、Aくんにとっては高嶺の花のような大学ばかりでした。

志望校が定まらないまま、国公立大学受験の第一関門である共通テストがやってきました。

共通テスト本番でも、Aくんは自分の夢や受験校が不透明な状態なのでモチベーションも低いまま、「ひとまず頑張って高得点を狙う」という、ふわっとした意気込みでの受験です。

結果、目標点をはるかに下回る壊滅的な数字でした。

こんな点数で、どこを受験すればいいの…?

Aくんは心身ともに疲弊していますが、二次試験に向けてさらに焦燥感と絶望感が待ち受けています。

基礎が固まっていない状態で応用問題を解こうとすることの無力感。友達が着実に成績を伸ばしていく不安。力試しに受験してみた私立大学の不合格通知。不本意ながら受験する国立大学への複雑な感情。

「なぜ自分は理系を選択してしまったのか…」

高校1年生の冬に抱いた漠然とした将来への希望が、後悔の念へと変わっていったのです。

厳しいお話でしたが、Aくんの歩んだ高校3年間は実際に存在する話です。
オススメ記事

第2章:数学が嫌いだから漠然と「文系」を選択したBさんの物語

第2章−1.「数学が嫌いだから文系へ」という安易な動機

高校1年生のBさんも、第1章でお話したAくんと同様、中学校までは数学もそれなりにこなせていたはずでしたが、高校数学の難しさに苦戦を強いられていました。

「なぜそうなるのか」という理屈よりも、「とにかく解き方を詰め込む」という一方的な高校の授業方針に、強い拒否感を抱き始めます。

数学は楽しくないから勉強したくない…

これが彼女の口癖になっていました。

しかし、Bさんが苦しんでいようがお構いなしに学校の授業はガンガン進み、とうとう文理選択の時期になりました。

中学生の時までは「国公立大学の医療系に進みたい」と思っていましたが、この頃になると数学の成績は学年平均以下になっており、口に出すことができません。

そんなBさんの頭に浮かんだのは、「文系に行けば、嫌いな数学から逃げられる」という安易な考えです。

特に明確な理由はありませんでしたが、「友達と比べて数学ができないから、理系に進んでも苦労するだけだ」という思いこみだけで文系を選択してしまいました。

そして、文系を選択して高校2年生になったBさん。

数学の授業が進む速度は高校1年生のときと変わりませんが、「数学を頑張らなくてもいいんだ」という安堵感を覚えていました。

しかし、「文系は理系と比べて易しい」という考えを持っていたBさんに待ち受けていたのは、予想外の大きな壁でした。

理系は理系の苦労があるように、文系には文系の苦労があります。

第2章−2.「逃げられない勉強」と「モチベーションの低下」

数学から解放されたことに安堵したのも束の間、高校2年生を迎えたBさんは、数学とは異なる、しかし決して楽ではない文系科目の壁にぶつかっていました。

まず最初に立ちはだかるのは、得意ではなかった国語の負担です。

特に現代文では、筆者の主張や登場人物の心情を正確に読み取る読解力はもちろん、それを自分の言葉で表現する思考力や表現力が求められますが、Bさんは「何をどう書けば正解なのか全く分からない」という状態でした。

文系選択の理由が「国語が得意」ではなく「数学が苦手」という人に多い苦悩ですね。

そして、最もBさんのモチベーションを削いだのは地歴公民でした。

世界史の授業は複数の国を行ったり来たりしながら進むので、「今どの国のどの時代の話をしているのかわからない」という状態です。

日本史も同様で、中学生の歴史の延長かと思いきや、比にならないほどの人物名や事件名に愕然としていました。

数学がないのは楽だけど、暗記ばかりで全然面白くない…

Bさんの口から、今度は文系科目へのうんざりとした言葉がこぼれるようになりました。

文系に進んだ友達は、毎日コツコツ歴史の重要語句を覚え、隙間時間を見つけては古文単語や漢文の句形を暗記していましたが、Bさんは全く興味がありません。

彼女にとって、文系科目の勉強は「数学から逃げた結果、仕方なくやらされているもの」でしかなかったのです。

数学から逃げただけなのに、結局勉強は大変だし、将来やりたいことないから何も楽しくない…

Bさんの口癖は、いつしかこの言葉に変わっていました。

Bさんにとって文系選択は自発的に選んだ道ではなく、安易に選んでしまった道なので「やらされている」感覚が強く、勉強へのモチベーションも低いまま、将来が不透明の状態で高校3年生へ進級するのでした。

第2章−3.将来への漠然とした「不安」と「虚無感」

とうとう高校3年生になり、いよいよ受験が目前に迫る中、Bさんは迷路に迷い込んでいるような感覚です。

数学から逃れるために文系を選択したものの、「将来自分が何をしたいのか」という悩みに対して明確な答えが出せないままでした。

いろんな大学のパンフレットを取り寄せて眺めていますが、

法学部って具体的に何を勉強するの?
文学部って就職先が限られるって聞くし…
経済学部って数学が苦手でも大丈夫なのかな?

と、疑問ばかりが先行し、どれもピンとこないのです。

漠然と「大学には行きたい」という気持ちだけはありましたが、Bさんは学びたい分野が見つからないため、無意識のうちに志望校選びは「入りやすそうな大学」を探す方向に変化していました。

そして学校での三者面談の日。

学校の先生から志望校の理由を聞かれたBさんは「国語と英語だけで受験できるから」としか答えられません。

もちろん、先生からは追加の質問がありました。

確かに◯◯大学なら合格すると思いますが、本当にその学部に興味があるの?

Bさんは言葉に詰まります。

苦手な数学から逃げた結果の志望校選択だったので、本当に自分が大学4年間を通して勉強したい内容なのかと聞かれると自信がありませんでした。

Bさんは「もう1回考えてみます」と返事をしたものの、自分の本当の夢だった『国公立大学の医療系』への進学は、受験科目の時点で資格すらありませんでした。

そして、最初の関門である共通テストが訪れましたが、結果は惨憺たるものでした。

特に地歴公民の点数は、これまで「どうせ暗記すればいいんでしょ?」と甘く見ていたツケが回り、膨大な範囲の暗記が間に合っていませんでした。

「もっと早くから真面目にやっていれば…」と後悔の念がこみ上げますが、もう手遅れです。

国語の現代文も「どうせ読めないし」と諦め半分で取り組んだ結果、点数は伸び悩み、目標点には遠く及びませんでした。

近年の共通テストは、暗記だけでは点数が取りにくく、しっかり対策しないと高得点は狙えません。

しかも、一般入試だけでなく、推薦入試も検討していたBさん。

推薦入試の面接で「なぜこの学部を志望するのですか?」という最も基本的な質問に対しても、当たり障りのない、誰にでも言えるような志望理由を並べるのが精一杯でした。

Bさんの場合、Aくんのような激しい後悔や絶望感とは異なり、今の彼女の心の中は「虚無感」に支配され、情熱も目標もなく、ただ漫然と受験を終えてしまったのです。

とても悲しい話ですが、文理選択の時に自分の夢をおざなりにしてしまった人の末路かもしれません。
オススメ記事

第3章:後悔しない文理選択について考える

ここで、AくんとBさんの高校3年間から見えた「2つの落とし穴」について考えましょう。

Aくんの場合
数学が苦手なのに、克服しないまま「理系」を選択

「理系は就職に有利」というイメージから、数学が苦手なまま理系を選択してしまいました。しかし、高校2年からの数学IIIや物理・化学の難易度についていけず、志望校の必須科目をクリアできず受験できる大学を探すはめに。

苦手意識を持ったままだと、時間が経つにつれて苦手意識は増長され、気がつくと取り返しがつかない状態になります。


Bさんの場合
数学から逃げるように、将来の夢とは真逆の「文系」を選択

小さい頃から「医療系」を考えていましたが、数学が嫌で「逃げ」のように文転したBさん。そんなBさんは膨大な暗記や国語の記述に苦戦を強いられます、そして、将来のビジョンもなくモチベーションは低いまま受験を迎えるはめに。

将来の夢や志望校がないと、苦しい受験勉強も避けるようになり、最終的には虚無感と後悔を残してしまいます。

ここからは、AくんとBさんの失敗から学び、具体的なアドバイスを展開します。

第3章−1. 「好き」と「得意」を深掘りして区別する

ここまで読んでくださった方の中には、AくんやBさんの事例を見て、「じゃあ、どうすれば後悔しない文理選択ができるの?」と疑問に思った方も多いでしょう。

その答えは、

自分の『好き』と『得意』を深掘りすることです!

ただし、ここで注意してほしいのは、「好き」と「得意」は必ずしも一致しないという点です。

例えば、「数学はテストの点が取れるから得意だけど、問題演習は苦痛だし好きではない」という生徒もいれば、「歴史の授業は楽しいけど、どうしても用語が覚えられず、テストでは点数が伸び悩む」という生徒もいます。

重要なのは、目先の成績や点数だけで判断せず、「将来、自分が学びたい分野、携わりたい分野は何か」という視点を持つことです。

大学生になると、今まで通っていた学習塾のようなサポート体制は存在せず、基本的には自分一人で学び続ける必要があるので、興味のない分野に進学すると苦痛の大学生活を余儀なくされます。

どうやって自分の興味がある分野を見つけたらいいの?

自分の興味が惹かれる分野何か探すために、ここで具体的な方法をいくつか紹介します。

【オープンキャンパス・模擬授業】

高校の授業とは異なり、大学の専門的な学びは、想像以上に面白く、奥深いものが多いです。長期休みを利用して、興味のある大学のオープンキャンパスに積極的に参加しましょう。

できれば、そこで模擬授業を体験し、実際に大学の先生の話を聞いてみることで、その学問分野の面白さや、大学での学びの雰囲気を肌で感じることができます。

逆にオープンキャンパスに参加することで、「この大学は想像と違って興味のある分野ではなかった」といった、志望校を選択する際の基準ができる側面も大事です。

参考サイト:マナビジョン

上記サイトは全国の大学のオープンキャンキャンパス予定が掲載されており、日程や地域などの絞り込み検索ができます。

長期休みや連休を使って気になる大学のオープンキャンパスに参加してみましょう。


【インターンシップ・職場体験】

オープンキャンパスと比べて認知度が低いですが、気になる職業や業界の職業体験(インターンシップ)に参加してみましょう。実際に社会人がどのような仕事をしているのか、どのようなスキルが求められるのかを間近で見ることで、将来の具体的なイメージが湧きやすくなります。

医療系・弁護士・先生などの職務内容はイメージができると思いますが、ほとんどの職業は職務内容についてイメージしにくいと思います。インターンシップによって、漠然とした「この仕事に就きたい」という思いが、より明確な「この分野を大学で学びたい」という目標に変わるかもしれません。

参考サイト:CareeTern

上記サイトはさまざまな職業のインターンシップが掲載されており、オンラインで参加することができるものもあります。

このようなサイト以外にも、医療系や工学系といった業種に特化したサイトもありますので、興味のある方は一度確認してみてはいかがでしょうか?

何事にも言えますが「百聞は一見にしかず」です。
実際に目にして体験することで、将来の夢を明確に決めていきましょう。

第3章−2.募集要項は「入試戦略の地図」である

自分の「好き」と「得意」を深掘りし、学びたい分野の方向性が見えてきたら、次に行うべきは具体的な大学・学部の徹底的な研究です。

具体的にどんなことをすればいいの?

大学や学部を調べたり研究したりする上で、最も重要なプロセスは『大学が公開している募集要項の確認』です。

インターネット上には、まとめサイトや比較サイトなど、様々な大学情報が溢れていますが、募集人数や入試方式など毎年のように細かな変更があるので、最新かつ正確な情報は必ず大学が公式に発表している募集要項で確認するようにしましょう。

募集要項は、志望校合格への道のり正確に示す、まさに「入試戦略の地図」となるからです。

下記3点は、募集要項の中でも特に確認しておくべき内容です。

募集要項で確認すべきポイント】

①、共通テストの科目・配点比率

国公立大学志望者はもちろん、私立大学でも共通テスト利用入試を検討する上で不可欠な情報です。志望学部がどの科目を、どのような配点で利用するのかを確認しましょう。

例えば、同じ文系学部でも、経済学部や経営学部では数学の配点が高かったり、理系学部でも情報系では理科の選択肢が広かったりすることがあります。自分の得意科目が最大限に活かせる配点の大学を探すことも、戦略の一つです。


②、個別学力試験の科目・配点

国公立大学の二次試験、私立大学の一般入試の核心となる部分です。

特に理系なら「数学Ⅲが必須かどうか?」「理科は1科目なのか2科目なのか」、文系なら「国語は古文と漢文すべてを課しているのか?」「社会科目が必須かどうか?」は最重要確認事項でしょう。

また、総合型選抜や推薦入試を考えているならば「小論文が必須かどうか?」「面接は個人面接なのかグループディスカッションなのか?」まで確認しておく必要があります。


③、出願資格や英検等の優遇措置

大学によっては、特定の資格(英検、TOEFLなど)の有無によって受験すらできないこともあります。また、細かく確認すると、英検の有無だけでなく一定以上のスコアを求められていたり、英検取得日からの有効期限が設けられていたりします。

英検などの外部資格は、受験してから結果が出るまで1〜2ヶ月はかかりますので、早めに募集要項を確認しておきましょう。

募集要項を見ると、日々勉強する科目の優先順位もつけやすくなりますよ

 

また、第1章と第2章でお話しした、AくんやBさんの場合、募集要項のどの部分を特に確認すべきなのか、見ていきましょう。

【Aくんの場合】
理系選択したが、数学が苦手な受験生へのアドバイス
Aくんのように数学に苦手意識があるまま理系を選んだ場合、志望校選びは非常に困難であることに変わりありません。しかし、全ての理系学部が数学Ⅲのような高度な学習範囲を要求するわけではありませんので、下記2点で大学・学部を調べてみましょう。
1.数学III不要な理系学部を探す
情報科学系や農学部、生命科学系の一部学部では、数学IIIを必須としない理系学部が存在します。例えば鹿児島大学理学部や農学部などが挙げられます。しかしながら、数学ⅠAIIBCが課せられる場合があるので、手放しに数学から解放されるわけではありません。

2.理科1科目だけで受験できる大学を探す

多くの理系学部は理科2科目が必須ですが、中には1科目選択で受験可能な大学・学部もあります。これは勉強負担を軽減する上で有効な選択肢となり得ます。ただし、選択できる大学はある程度限られており、一般的に倍率が高くなる傾向にあることを覚悟しておきましょう。

勉強のモチベーションが下がる前に、一度いろんな大学を調べてみる価値はあると思います。
【Bさんの場合】
数学の苦手意識から文系選択した受験生へのアドバイス
喜ぶ女子高生
Bさんのように高校1年生の時に「数学から逃げたい」という動機で文転した人には、基本的に二択の選択肢があります。
1.文系の中で希望する大学・学部を探す
オープンキャンパスやインターンシップを通して、実際にいろんな大学や学部を体験することで、文系学部で興味や関心のある学部を探すべきでしょう。Bさんのように文系を選択した受験生は、特に経済・経営・国際などの学部を選択する人が多い印象です。
3.文系だけど理系学部へ進学できる大学を探す
基本的に多くの理系学部では、数学Ⅲ・英語・理科2科目を課していますが、一部では文系からでも理系学部へ受験することが可能です。例えば、宮崎大学医学部看護専攻などは共通テストは理系文系問わず受験資格があり、二次試験は面接のみです。数多くあるわけではありませんが、このような大学も存在するので一度探してみましょう。

募集要項は単なる受験要件の羅列ではありません。

その中にはアドミッションポリシーと呼ばれる「どのような学生を求めているか」を示す大学側からのメッセージも記載されています。しっかり熟読し、自分の特性や希望と照らし合わせて後悔のない進路選択をしましょう。

第3章−3.「文理融合分野」の可能性を考える

第3章の最後は、AくんやBさんのような文理選択を後悔している人、文系や理系の学部にピンときていない人に向けた、文理融合分野と呼ばれる文系理系問わずに受験できる分野についてお話ししたいと思います。

文理融合分野?
具体的にどういう学部ですか?

最近、国公立大学や私立大学でも学部構成が多様化しており、従来の「文系」「理系」という明確な枠組みにとらわれない学部を新設する大学が増えていますが、みなさんはご存知でしょうか?

特に、現代社会が直面する複雑な問題(環境問題、情報化社会、国際紛争など)が、今までのような単一の学問領域だけでは解決することが厳しいという背景のもと、九州大学共創学部や熊本大学情報融合学環のような、文系・理系の垣根を超えた学問の研究が求められています。

具体的には、データサイエンス学部、総合政策学部、環境情報学部、国際教養学部などが挙げられます。

これらの学部は、以下のような特徴を持っています。

① 文系・理系のどちらの素養も求められることが多い

例えば、データサイエンス学部では、統計学やプログラミングといった理系の素養に加え、社会現象を分析するための人文社会科学的な視点も不可欠です。総合政策学部では、政策立案のために経済学や法学の知識だけでなく、統計分析や情報科学のスキルも活用します。


② 数学的な思考力と、人文社会科学的な視点の両方を養える可能性

従来の文系学部では深く扱わなかった数学や統計学を学ぶ機会がある一方で、理系学部では触れることの少なかった歴史、文化、社会の仕組みなどを多角的に学ぶことができます。これにより、幅広い視野と問題解決能力を身につけられる可能性があります。

このように、文理融合学部では、文系的な「なぜそうなるのか」という問いと、理系的な「どうすれば解決できるのか」というアプローチを両方から学ぶことができます。

知らなかったけど、その分野に興味があります!

一見すると、文理選択で悩む生徒にとって、これらの文理融合学部は魅力的な選択肢に見えるかもしれません。「数学が苦手だけど理系に進みたい気持ちもある」「文系だけど論理的な思考も好き」といった生徒にとっては、まさに理想的な学びの場のように映るでしょう。

ただし、安易な選択は禁物です。

これらの学部は、確かに多様な学びを提供しますが、それは裏を返せば、どちらか一方の分野に特化するわけではないという可能性を含んでいます。深い専門性を追求したい生徒にとっては、学ぶ内容が中途半端に感じられる可能性もゼロではありませんので、しっかり募集要項を見て何が学べるのか確認しておきましょう。

安易な選択は文理選択のときと同様、中途半端な結果に繋がりかねません。

大切なのは「自分の得意な分野を強化しつつ、多角的な視点を得る」ために、異なる分野の知識を広げていくという姿勢と目的を持つことが不可欠です。

例えば、文系の素養が軸にあるなら、統計学やプログラミングを学ぶことで、社会現象の分析に深みを持たせることができます。理系の素養が軸にあるなら、人文社会科学を学ぶことで、技術開発が社会に与える影響を多角的に考察できるようになるでしょう。

第4章:それでも文転・理転を考えるなら…

第4章−1.「文転」「理転」の厳しい現実を理解する

もし今、自分が間違った文理選択をしてしまったと感じ、文転や理転を考えているなら、その道のりが決して平坦ではないことを深く理解しておく必要があります。

残念ながら、文転・理転には、想像以上に「厳しい現実」が待ち受けています。

この厳しい現実を乗り越えるには、生半可な覚悟では到底足りません。具体的にどのような困難があるのか、一つずつ見ていきましょう。

【圧倒的な学習量の増加】

文転や理転を決断するということは、新たに膨大な量の学習範囲をゼロから、しかも短期間で習得しなければならないことを意味します。

・文転の場合

理系から文系へ転向する場合、まず直面するのは地歴公民の基礎知識の習得です。世界史、日本史、地理、政治経済、倫理といった科目は、それぞれが広大な範囲を持ち、年号、人名、出来事、概念の正確な暗記が求められます。
さらに、古文・漢文も避けられません。理系選択者の多くは高校1年生の時に蔑ろにしているケースがほとんどなので、文系選択者と同様のレベルになるまでに時間がかかります。そして、現代文の高度な読解力や自分の考えを論理的に構成し表現する力も、一朝一夕には身につきません。


・理転の場合

文系から理系へ転向する場合、その学習負荷はさらに苛烈になる傾向があります。基本的に理系学部で必須となる数学IIIの勉強にはじまり、物理・化学・生物といった専門科目も求められます。これら科目に対して理論把握と問題演習をこなす必要があるので、想像を絶する努力を要します。
また、学校では文系科目の暗記も求められるので、通常通り理系に進んだ生徒ですら苦戦する分野を、短期間かつ独学で追いつくのは、文字通り「絶望的」な状況と言わざるを得ません。

学校が求められている学習内容と、志望校が求めている学習内容の不一致が、文転・理転を選んだ人に重くのしかかります。

特に、理転を目指す人にとって、入試で必要な数学IIIや理科2科目を独学で勉強し、現役生として受験することは不可能に近い行為です。

私立大学を志望することで受験科目を削って負担を減らす方法もありますが、多くの場合は浪人生としてイチから受験勉強をやり直す覚悟が必要になります。

現実問題として、文転・理転を目指す場合、現役合格が厳しくなることは理解しておきましょう。

第4章−2.文転・理転を成功させる「覚悟と戦略」

文転や理転が非常に困難な道であることは、AくんとBさんの事例、そして先述した内容からも明らかだと思います。

しかし、もし「それでも自分の進路を変えたい」という強い意志があるのなら、ただ闇雲に努力するだけでは目標は達成できません。成功のためには、「明確な覚悟」と、それを裏付ける「徹底した受験戦略」が不可欠です。

具体的にどういうことですか?

では、ここから、文転・理転を成功させる具体的アクションプランをお話ししたいと思います。

アクション1. 早期の決断と揺るぎない覚悟

文理選択で間違えたと感じ、「もうこれ以上は無理だ」「このままでは将来が閉ざされる」と感じたら、手遅れになる前に『文転・理転』の決断を下すことが何よりも重要です。

高校2年生の早い段階であれば、リカバリーして現役合格できる可能性はありますが、高校3年生になってからでは、その可能性は著しく下がります。

そして、一度決断したら、半端な気持ちで勉強に臨むことは許されていません。

当塾でも、文転・理転した受験生をサポートしてきましたが、現役合格にこだわるのであれば生半可な努力でどうにかなるものではなく、まさに「人生を賭ける」くらいの覚悟が求められます。

勉強時間を増やすために、楽しかった部活動を退部した人もいました。

これまで積み上げてきた学習内容を一度リセットし、新たな分野の学習に集中する、その強い精神力が成功の鍵となります。

アクション2. 最短最速で進める学習計画

覚悟を決めたら、志望校の募集要項に基づいて、具体的な学習計画を日単位・週単位で立てましょう。

いきなり独学で全科目頑張ろうとすると、どこかで無理をして日々の勉強に影響がでる危険性があるので、長期的な視点で「どの科目をいつまでに、どの教材を使って、どこまで学習し、何をゴールに見据えるのか」を綿密に計画し、常に進捗を確認しながら修正していくことが重要です。

「計画がすべて」って感じがしますね

この際、学校や塾の活用は非常に有効な手段となり得ます。

文転・理転は、独学だけで勉強を進めるのは難しく、あわせて周りの人より勉強量が増加するため、効率的な学習環境が不可欠です。学校の先生に今後の指示を仰いだり、個別の学習状況に合わせてくれる学習塾を活用したりなど、自身の状況に最適なサポートを見つけることが、成功への近道となります。

アクション3. 共通テストと個別学力試験のバランス戦略

国公立大学を目指す場合、当然ながら共通テストと個別学力試験のバランスは合否を大きく左右します。

共通テストで高得点を取ることができれば、文転や理転した人にとっては特に、二次試験で必要な専門科目の負担を軽減することができるでしょう。逆に、共通テストで思うような点数が取れなかった場合、個別学力試験で挽回できる学力を身につけておかないといけません。

共通テストで逃げ切るのか、二次試験まで見据えておくのか、この2択は重要な戦略です。

そして、文転・理転した人の基本戦略は、『共通テスト逃げ切り』です。

二次試験で必要な専門科目で勝負しようとしても、もともと文系・理系を選択していた受験生と比べると理解度や演習量が少なく、どうしても劣勢を強いられることになります。

よって、できるだけ共通テストで点数を獲得し、二次試験科目に関しては分野別に優先順位をつけて、アドバンテージを保ったまま合格を狙う戦略が望ましいでしょう。

オススメ記事

第4章−3.最後の砦「 大学入学後の編入試験」

高校での文理選択、そして大学受験での再挑戦を経てなお、自分が本当に学びたいことと現在の学部が一致しないと感じるケースも、残念ながら存在します。

そうした場合に検討されるのが、大学入学後の文転・理転、いわゆる「編入試験による別大学への移籍」「同大学の別学部への移動」です。

大学に入学してから進路を変えることができるの!?

大学の制度として、別大学への移籍や別学部への移動などができる編入試験は存在します。

しかし、これは高校での文理選択ミスをリカバリーするための最後の砦であり、決して安易に頼るべき手段ではありません。その難易度は、大学受験よりも募集人数の少なさから、高難度だといえるでしょう。

【編入学制度:別の大学への「移籍」】

編入学制度とは、現在在籍している大学とは別の大学の学部や学科に、途中から編入する制度を指します。一般的には、大学を卒業した者、または2年以上在籍し規定の単位を修得した者が出願資格を持つことが多いです。

では、ここで注意点を3点お伝えします。

① 非常に難易度が高い
編入学試験は、大学によって科目が異なりますが、専門科目の筆記試験、英語、小論文、面接などが課されます。特に難関大学への編入学は、大学受験一般入試以上に狭き門となることがほとんどです。募集枠が非常に少なく、数名の募集に対して数十人、数百人が応募するといったケースも珍しくありません。

② 準備期間と勉強負荷
編入学を目指す場合、現在の大学での学習と並行して、編入先の大学で求められる専門科目の学習を独自に進める必要があります。例えば、文系学部から理系学部へ編入する場合、高校数学の基礎からやり直す必要があったり、専門的な理科科目を独学で習得したりする、非常に大きな学習負荷がかかります。

③ 大学院進学時の専攻変更
大学卒業後、大学院に進学する際に、学部とは異なる専攻を選ぶことで、実質的に文転・理転するケースもあります。しかし、これもまた、その分野の基礎知識が不足している場合は、大学院での研究についていくために膨大な学習を要します。大学院での学びはさらに専門性が高まるため、正直現実的ではありません。


【転学部・転学科制度:同じ大学内での「移動」】

転学部・転学科制度とは、現在在籍している同じ大学内で、所属する学部や学科を変更する制度です。編入学制度よりは挑戦しやすい制度ですが、もちろんそれ相応の努力と覚悟が必要となります。

では、ここで同じく注意点をお伝えします。

① 大学によって制度の有無や条件が異なる
全ての大学にこの制度があるわけではありません。また、制度があっても、転学部・転学科が認められる時期(1年生の終わり、2年生の終わりなど)、成績基準(特定の科目の高得点など)、選考方法(筆記試験、面接、小論文など)、募集人数などが大学によって大きく異なります。

② 難易度
編入学ほどではありませんが、転学部・転学科も容易ではありません。特に人気のある学部や学科への転入は、非常に高い成績が求められたり、厳しい選考をクリアする必要があったりします。例えば、理系の学生が文学部に転学部する場合、文系科目の単位取得状況が問われたり、小論文の提出を求められたりすることがあります。

将来に悩む人への救済措置という位置付けなので、難易度の観点からも、あまり推奨できません。

大学入学後の文転・理転は、高校時代とは比較にならないほど、より高度な自己管理能力と学習意欲が求められます。時間的制約や勉強負荷、そして精神的な負担も大きいため、可能な限り高校生のうちに後悔のない文理選択を行うことが、何よりも重要であると強調しておきたいと思います。

まとめ:悔いのない文理選択が「将来の最適解」

高校生活は、夢と希望に満ちた輝かしい日々であると同時に、将来を左右する重要な決断を迫られる時期でもあります。

その中でも、文理選択は高校生にとって非常に重い意味を持つ岐路となるということを、AくんとBさんの物語から痛感していただけたのではないでしょうか。

今回、安易な気持ちでこの選択をすることの危険性を繰り返し強調してきましたが、なんとなく周りに流されたり、目先の得意不得意だけで判断したりすることは、将来的な後悔に直結する可能性が高いことを少しでも知ってもらえたらと思います。

自分自身で真剣に考え、悩み、そして主体的に選び取ることで、その未来は大きく、そして良い方向に変わっていくはずです。ぜひ、悔いのない充実した生活にしてきましょう。