【なぜ勉強がつらい?】成績優秀者から心理学テクニックを学ぼう【勉強に関わる心理学】
こんにちは、郷中塾の宮園です。
早速ですが、こんな悩みを抱えていませんか?
「もっと頑張らなくちゃと思うのに、なぜかやる気が出ない…」
「頑張っているはずなのに、成績が伸び悩んでつらい…」
「周りのみんなは、すごく頭が良く見える…」
実はその「つらさ」の裏には、人間の脳と心の働きに深く根ざした心理学的なメカニズムが隠れているかもしれません。
今回は、そんな勉強意欲を削ぐ「心の落とし穴」の正体を心理学の視点から解き明かし、それを乗り越えるための具体的なテクニックを、一つひとつ丁寧に解説したいと思います。
あなたの努力が確実に結果に結びつくよう、そして、勉強が「つらいもの」から「成長の喜び」に変わるよう、お手伝いできればと思います。
第1章:勉強の「やる気」が奪われる心理学的要因

いきなりですが、みなさんに質問です。
勉強すればするほど、逆に不安に襲われてしまった経験はありませんか?
この謎の不安感や恐怖感のように、勉強すると様々な心理状態に陥ります。
しかしながら、ほとんどの高校生はなぜこのような心理状態になっているのか自分で言語化できていません。
子ども自身が今の気持ちに気づけていないことが多いため、ご家族にうまく気持ちを伝えられず、その結果として、ご家族もお子さんの考えをますます理解しにくくなってしまいます。
面談の際に、保護者様からこのような相談をいただく時がありますが、これは本人もご両親も今の心理状態を正確に把握できていないことが原因かもしれません。
第1章では、勉強中に陥る様々な心理状態を5パターンに分類し、原因を詳しく説明することで、現在の心理状態や今後起こりうるリスクを把握していきましょう。
ということで、まずは第1章の概要を見ていきます。
1.勉強した最初に感じる万能感
『何かできそうな気がする』という勘違い
2.勉強すると逆に感じる絶望
『どうせやっても無駄』という諦めや無力感
3.長期目標すぎて実感が湧かない
『まだ時間があるし…』という問題の先延ばし
4.妥協できずプレッシャーに潰れる
『できない自分はダメだ』という自己嫌悪
5.周りの友達と比べて落ち込む
『自分だけ出来ていない』という劣等感
第1章-1. 最初に感じる「万能感」の落とし穴

勉強を始めたばかりの時、「どんどんわかる!」「これならいけそう!」といったポジティブな感情を持った経験はありませんか?
一見すると良いスタートのように思えますが、実はその後の学習を妨げる落とし穴になることがあります。
必ずしも悪い状態だとは言い切れませんが、そのポジティブな気持ちだけで勉強するのは危険かもしれません。
なぜなら、心理学的視点から見ると『楽観性バイアス』に陥り、『報酬予測』がズレてしまっている危険性があるからです。
「今はダメでも、きっといつか成績は上がるはずだ」
といった、根拠が無いまま漠然とした期待を持っている状態のことを指します。
みなさんはもうお分かりだと思いますが、このような楽観的思考は、現実的な勉強計画を立てる際の妨げになりかねません。
確かに楽観性バイアスは、将来に対する不安を軽減し、行動を促進させるメリットもあります。しかしながら、それは同時に、「現実の危機」から目を背けさせる危険なフィルターになることもあるのです。
といった事態を引き起こす原因となるのです。
「初めの問題が解けてるし、このままスムーズに勉強できるはず」
といった、今の状態から予測し、起こりうる将来を事前に予想することを指します。
しかし、勉強を始めたばかりの時期には、この報酬予測がしばしば『誤作動』を起こします。
例えば、新しい分野を数ページ読んで、「今は理解できてるから、成績が上がってる気がする!」と感じたり、基本的な問題をいくつか解けたときに、「どんどん解けるから、得意かもしれない!」と認識したりすることがあります。
これは、問題の新規性や初期のわずかな進歩が、脳に過剰な報酬を予測させてしまうのが原因ですので、仕方のない反応でしょう。
しかし、実際の勉強は地道ですぐには結果が出にくいものです。難しい問題に直面したり、成績が伸び悩んだりすると、『初期の過剰な報酬予測』と『現実の報酬』との間に大きなギャップが生じます。
このギャップが大きければ大きいほど、脳は「予測が外れた」「これ以上やっても無駄だ」と感じ、ドーパミンの放出を停止したり、逆にネガティブな感情を引き起こしたりします。
第1章-2. 「努力しても報われない」と感じる絶望

大学受験という目標に向かって日々努力を重ねる中で、「頑張っても成績が上がらない」「何度やっても同じ問題で間違える」といった経験は必ず訪れます。
しかし、その経験が繰り返されると、
という絶望感が芽生えてしまうことがあります。
これが、心理現象のひとつである「学習性無力感」と呼ばれる状態なのです。
【「学習性無力感」とは何か?】
学習性無力感は、もともとアメリカの心理学者マーティン・セリグマンが行った動物実験で発見された概念です。
「何をしても自分の行動が結果に繋がらない」という経験を繰り返すことで、「自分には状況をコントロールする力がない」と思い込み、その後の努力を放棄してしまう心理状態を指します。
例えば、実験で電気ショックから逃げられない状況を何度も経験させられた犬は、後に電気ショックから簡単に逃げられる状況に置かれても、なぜか逃げようとしなくなります。
これは、過去の経験から「何をしても電気ショックは避けられない」ということを学習してしまい、無力な状態に陥ってしまった状態です。
・苦手科目の数学に一番時間を費やしたのに、単元テストで全然点数が取れない。
最終的には「何をしても失敗する」という経験だけが増えてしまうことでネガティブ思考に陥ります。
ステップ②:努力しても無駄という思考の定着
・自分は周りと比べて勉強の才能がないから、努力しても無駄だろう
これによって、自分の行動が結果に影響を与えるという感覚が失われ、「外部の力(運や才能など)によって自分の結果が決まる」と思い込んでしまいます。
ステップ③:行動意欲の低下と悪循環
・計画通りに勉強が進まなくなり、学習そのものを放棄してしまう。
この行動意欲の低下は、さらに成績不振を招き、それがまた「ほら、やっぱり自分はできないんだ」という思考を強化するという、負の悪循環を生み出します。
重要なのは、「自分の努力が結果に結びつく」という感覚を再構築することです。
第1章−3. 長期目標は「実感が持ちにくいので他人事」

ここで、いきなりですが質問です。
どうして「大学受験のために勉強は大事」とわかっていながら、ついスマホを触ってしまうのでしょうか?
大学受験という大きな目標は、多くの受験生にとって「遠い未来の話」です。
ですので、長期目標に向かって毎日コツコツと努力しようとしても、目標が遠すぎて危機感を感じられず、どうしても必要性に駆られづらいのです。
一方、スマホには「即座に快楽が得られる誘惑」が溢れています。
・SNSをチェックする(すぐに情報が得られる)
・ゲームで遊ぶ(すぐに達成感と楽しさが得られる)
など、 これらの行動は短時間かつ容易にドーパミンを分泌することができるので、手軽に脳を興奮状態にしてくれます。
その結果、長期目標に向けた努力よりも、短期的な満足度を求めてスマホを触ってしまうのです。
では、なぜ「将来の大きな幸せ」よりも「目の前の小さな快楽」を選んでしまうのでしょうか?
その答えは、『時間割引率』という心理現象で説明されています。
【「時間割引率」とは何か?】
時間割引率とは、「時間的に遠い未来の報酬ほど、その価値を低く評価する」という心理的傾向を指します。
例えば、同じ価値のものでも、すぐに手に入るものの方が、将来手に入るものよりも魅力的に感じるということです。
多くの人は無意識に、将来手に入れられる金額や価値の方が高いとしても、「今すぐ手に入る快楽」を選んでしまう傾向があります。
未来の報酬が、たとえそれがより大きなものであったとしても、目標が遠ければ遠いほど、無意識のうちに価値が低く見積もられてしまうのです。
「時間割引」という考え方が働くと、将来のために勉強することの価値が小さく感じられてしまいます。その結果、将来の目標を達成するために“今”努力することの大切さも、あまり感じられなくなってしまうのです。
結果として、
「まだ時間があるから、本格的に始めるのは来月からでいいか」
「今日くらい休んでも、あまり影響はないだろう」
といった先延ばしの心理につながります。
第1章-4. 「やるなら完璧に!」という自己破壊

さて、これから勉強に取り組む際、高い向上心と覚悟を持って取り組むことが大事になりますが、以下のような考えを持っている場合は注意点が必要です。
一見すると非常に真面目で素晴らしい姿勢のように思えます。
しかし、この「完璧でなければ意味がない」という思考が、実は勉強の妨げとなり、最悪の場合、自己嫌悪に繋がる危険性を秘めていることをご存知でしょうか?
完全主義バイアスとは、「目標を100%達成しなければ失敗である」「少しでも欠点があれば、全てが無意味である」という極端な思考パターンを指します。
つまり、「結果は、完璧かダメか2択しかない」といった、二極化して物事を考えてしまうことです。
完璧主義は、「やるなら完璧にする」という思考ゆえに、出来ない自分を許すことができず、自己嫌悪に陥ったり、勉強へのモチベーションが下がったりする危険性があります。
ただ、完璧主義自体が悪いわけではありません。高い目標を設定し、それに向けて努力する強い推進力になることもあります。
しかし、それが過度になると、以下のような形で受験生に負の影響を及ぼします。
【完璧主義バイアスに忍び寄る悪影響】
パターン①:行動の阻害と先延ばし
勉強を始める際、「完璧にするには、莫大な時間と労力がかかる」と無意識のうちに考えてしまうため、勉強することへのハードルが異常に高くなります。
その結果として、
・参考書選びや勉強法の模索に時間をかけすぎてしまい、なかなか勉強がスタートできない。
・1つの問題に対して必要以上に時間をかけてしまい、全体的な学習計画が大幅に遅れる。
このように、完璧主義は、「やるなら完璧にする」という思考ゆえに、かえって何もできなくなる「行動の停止」を招きます。
パターン②:「失敗できない」というプレッシャー
勉強とは、新しい知識を得る喜びや、難しい問題が解けた時の達成感など、大変な作業の中にも知的娯楽に満ちたプロセスでもあります。
しかし、自分自身や保護者からの「失敗してはいけない」という強いプレッシャーによって、この学習本来の楽しさを奪われ、
・間違えることへ過剰な恐怖を感じてしまい、挑戦を避けるようになってしまう。
・常に完璧を目指すあまり、勉強が義務感や苦痛へと変わってしまう。
これにより、勉強は「苦痛を伴う義務」と変化し、心から楽しむことができなくなってしまいます。
このように、完全主義バイアスに陥っている人の多くは、少しでも理解が不十分な箇所があったり、小さなミスがあったりすると、それを許容することができません。
そのため、「出来ない自分はダメなんだ」という自己批判に陥ってしまい、その時点で勉強を中断したり、モチベーションを大きく低下させたりします。
一見、真面目で素晴らしい特性に見える完璧主義バイアスですが、実は勉強の楽しさを奪い、義務感とプレッシャーを与え、最終的には押し潰されて自己破壊につながる危険性があることを十分に理解しておきましょう。
第1章-5. 「周りはみんな天才?」と勘違いする闇

学校で周りを見渡した時、「友達は難しい問題をスラスラ解いてるのに、自分だけ勉強ができないんじゃないか…」と感じたことはありませんか?
特に進学校にいると、周りの友達が自分よりもずっと優秀に見えてしまい、「周りの友達は天才ばかり」「自分は落ちこぼれ」であるかのように錯覚してしまいますよね。
これは、勉強している多くの人が抱える共通の悩みであり、実は『投影』という心理現象が密接に関わっています。
【「投影」とは何か?】
投影とは、「自分自身の内にある受け入れがたい感情(不安、劣等感など)を、無意識のうちに他者に映し出し、まるで他者がその感情や特性を持っているかのように感じてしまう心の働き」です。
例えば、
・本当は自分がイライラしているが、「周りがイライラしている」と思い込んでしまう
・自分が嫌っている相手に対して、逆に「自分が相手から嫌われている」と思い込んでしまう
など、自分の感情を他者に押し付けて考えてしまうことです。
勉強面でいうと、「自分はダメで、周りの人はみんな出来る」という自分の感情を、「周りの人から『あいつは馬鹿なんだ』と思われてる」と認識してしまう思考パターンです。
このような、自分自身の感情によって歪んだ形で思考してしまうことで、現実の状況を正確に把握する目を曇らせ、その歪んだ感情や思考が加速してしまうことがあります。
SNSでは、他者の成功ばかりが投稿されがちです。これらの投稿は、発信者にとっては努力の証や喜びの共有かもしれませんが、それを見た側からすれば、彼らの苦労や失敗の側面は一切見えません。
結果として、「自分の失敗」と「他者の成功」を比較してしまい、「なぜ自分だけがこんなに苦しいんだ」という孤立感や劣等感を深めてしまう危険性があります。
SNSを使うことが悪いとは思いませんが、
「つい周りの友達と比べてしまう」行為は、安易に自分の心を傷つけ、苦しむことになりかねません。
自分の心の状態によって友達の見え方が変わってしまうということを知り、必要以上に振り回されることなく、自分自身の勉強に集中できるようにしましょう。
第1章-まとめ

どうだったでしょうか?
1.最初に感じる「万能感」の落とし穴
楽観性バイアスによる「今はダメでも、何とかなるだろう」という根拠のない期待と、報酬予測による「初めが解けたから、このままイケるはず」という淡い期待を持ってしまう。
2.「努力しても報われない」という絶望
今までの失敗体験の積み重ねから、「どうせ勉強しても報われない」という学習性無力感の状態になり、勉強に対する諦めや絶望に陥ってしまう。
3.長期目標は「実感が持ちにくいので他人事」
時間割引率によって「将来の大きな幸せ」よりも「目先の小さな快楽」を欲してしまい、問題を先延ばしにしてしまう。
4.「やるなら完璧に」という自己破壊
「出来ない自分はダメなんだ」という完全主義バイアスから過度なプレッシャーを感じ、自己嫌悪で先に進めなくなってしまう。
5.「周りはみんな天才?」と勘違いする闇
自分の不安や焦りといった心の状態を他人に投影することで、「周りは天才で、自分はダメなんだ」と必要以上に比較して落ち込んでしまう。
このような心理的メカニズムを知ることで、まずは自分が直面している「謎のつらさ」の正体を知ることができます。
自分自身の心の状態を客観的に理解することで、次の第2章でお話しする、『心理学に基づいた効果的な勉強方法』の第一歩を踏み出しましょう。
第2章:勉強を加速させる「心理学テクニック」

第1章では、勉強のやる気を奪う心理的な落とし穴を深く掘り下げてきました。
ここからは、実際に心理学を活用して成績向上したIくんとNくんの実例をもとに、具体的なテクニックについて紹介していこうと思います。
ということで、第1章同様、第2章の概要を見ていきます。
1.自己の立ち位置を客観的に把握
「自分は何ができて、何ができていないのか」を正確に知る
2.小さな成功体験で勉強への情熱を再燃
「自分はできる」という気持ちを生み出し、行動に繋げる
3.長期目標を見据えた行動を習慣化
「未来のために勉強する」を日常生活に組み込む
4.巧遅拙速による勉強速度の加速化
「完璧を目指しすぎて悩む」という時間を捨てて勉強量を確保する
5.他人と比べない芯のある心の獲得
「他人の言動や結果」より昨日の自分と比較する
第2章-1. 現実を知る勇気と「メタ認知」による分析

勉強を始めたばかりの頃に抱いた漠然とした万能感は、勉強が本格化すると必ず現実の壁にぶつかります。
特に、難しい問題に直面したり、模試で期待外れの成績を取ったりすると、
という戸惑いや絶望感に襲われることがあると思います。多くの人がここで心が折れ、学習意欲を失ってしまいますが、この中でも着実に成績を伸ばしていく生徒には共通点があります。
それは「メタ認知」を活用している点です。
【「メタ認知」とは何か?】
メタ認知とは、「自分の活動を客観的に把握し、それらを制御する能力」のことです。簡単に言えば、学習している「自分」を、もう一人の「客観的な自分」が外から見ているようなイメージです。
この「メタ認知」を活用することで、自分の弱点を徹底的に分析し、根本原因を発見することが可能となります。
ただし、自分一人でメタ認知を行うには限界がありますので、信頼できる先生や友人に相談したり、自分の学習状況について意見を求めたりすることで、自分では気づけなかった客観的な視点を得ることが必要です。
当塾のNくんとIくんも、まさにこのメタ認知の力で自己分析を徹底的に行い、何から始めるかを効率よく選択することができました。
※今からお見せするのは2025年最新の全統模試及び駿台模試の結果です。
【Nくんの場合】
鹿児島大学医学部医学科 E判定からのB判定への飛躍
第1回 全統共通テスト模試・全統記述模試 ドッキング判定
▶︎鹿児島大学医学部医学科B判定

昨年度、鹿児島大学医学部医学科がE〜D判定で悩んでいたNくん。彼は、今まで苦手科目だった国語・英語・地理について問題意識を持っていましたが、苦手科目は勉強しても伸びる感覚が無かったらしく、気がつくと得意科目の数学・物理・化学ばかり勉強していました。
一緒に分析していく中で、「自分に足りないものは何かのか?」「何ができるようになれば成績が伸びるのか?」を徹底的に分析し、苦手科目の根本原因を言語化するメタ認知を実践してきました。
そうすることで、最初はうまくできなかったメタ認知も徐々に向上して、結果的には「自分の弱点を知って向き合うことができた」と語っています。
【Iくんの場合】
東京大学文科1類 D判定からのA判定への成長
第1回駿台全国模試
▶︎東京大学文科1類A判定

昨年度、東京大学文科1類D判定であと1歩足りなかったIくんも、同様の経験をしました。彼は、焦りのあまり難問ばかりの問題演習に取り組んでおり、知識の定着や復習に時間をかけることを惜しんでいました。
しかし、今の自分の心理状態と学習状況を冷静に見つめ直すメタ認知の訓練を続け、焦りや不安に飲まれることなく、ひとつずつ苦手分野を克服して着実に成績を向上させていきました。
特にIくんは、今の自分の立ち位置と長期計画を強く意識することで、「今の自分に必要な知識を探求する」という、彼に合った勉強法を確立することができるようになりました。
可能であれば、学校や塾の先生など頼りになる人と一緒に取り組んでみましょう。
NくんやIくんのように、メタ認知の力を活用し、現実と向き合う勇気を持つことで、自己理解を深めて成長へと変えていくことができるようになります。
第2章−2:成功体験で学習性無力感を打ち破る「自己効力感」

第1章でお話しした学習性無力感とは、失敗体験の積み重ねから「どうせ勉強しても報われないから無駄だ」という絶望を感じる状態で、勉強そのものに対して諦めや絶望に陥ってしまうとことでしたね。
しかし、そんな学習性無力感に陥ったとしても、適切な対策をすれば再び勉強への情熱を取り戻すことが可能になります。
その鍵となるのが、「自己効力感」と呼ばれる心理現象をつくりだすことです。
【「自己効力感」とは何か?】
自己効力感とは、心理学者アルバート・バンデューラによって提唱された概念で、「自分は、目標を達成するために必要な行動を実行できる能力がある」という感じる自信のことを指します。
これは、『自己肯定感』とは異なり、特定の能力やタスクに対する自信を示すもので、成功や成長の鍵とも言われています。
勉強面でいうと、「計算が得意だから、数学はできるはず」「英単語は完璧なので、英語長文も読めるはず」といった、具体的な根拠に基づいて向上するポジティブな感覚です。
では、NくんとIくんはどのようにして「自己効力感」を得たのか見ていきましょう。
【Nくんの場合】
Nくんは英語を伸ばすことが喫緊の課題でしたが、「今までたくさん長文を読んで努力したけど、成績がほとんど伸びなかった」という典型的な学習性無力感に陥っていました。
そこで、当塾で行われる英単語デスマッチで英単語帳を完璧に仕上げることを目標に、地道に英単語の暗記に取り組みました。最初は暗記に苦労して心が折れそうになることもありましたが、「昨日の自分より、今日の自分は確実に成長している」という自己効力感を実感してきます。
英単語を完璧にしたときには、今までの努力に基づいて「英語長文が読めるはずだ!」という強い自信を持ち、本当に英語長文を克服してくれました。
【Iくんの場合】
I君の場合、日本史と世界史の暗記が曖昧なまま問題演習を続けていたことで、「問題をいくら解いても、点数が伸びなくて気持ちが落ちている」という学習性無力感を抱いていました。
必要性を感じつつも放置していた知識定着を最優先し、勉強速度より勉強の内容や質を徹底的にこだわって取り組んでもらいました。その結果、今までバラバラだった知識が体系的にまとまり、「出来事の因果関係がわかってきたので、歴史に対する解像度が上がっている」と自己効力感が芽生えてきました。
自分の勉強に自信を持つことができたIくんは、勉強速度が徐々に上がっていき、今まで気にしていなかった細かい知識まで気を配った勉強法を確立しつつあります。
学習性無力感は、「自分の努力を信じることができない」というネガティブ思考から始まります。
そのネガティブ思考を断ち切るには、自分が納得する目標設定と、その目標を達成する経験が必要不可欠です。NくんやIくんのように、小さな一歩を大切にし、自分自身の可能性を信じて突き進む力を習得しましょう。
まずは小さな目標でもいいので、成功体験を積むことを目指しましょう。
第2章−3:未来を今に引き寄せる「習慣化」

第1章で、ほとんどの高校生は「遠い未来の大きな報酬(大学合格)」よりも、目の前の「今すぐの小さな快楽(スマホ)」を優先させてしまうというお話をしましたが、覚えていますでしょうか?
そして、この将来の報酬に対して無意識のうちに価値を下げてしまう時間割引率は、気持ちで克服しようとしても改善が難しいのが現実です。
というのは、人の心理学現象から見ると不可避な行動なのかもしれません。
しかし、この不可避だと思われる心理的落とし穴に対しても、効果的な対処法があります。それが、「習慣化」と「チャンク化(分割化)」を組み合わせた戦略です。
さっそく、NくんとIくんの具体的対処法を確認してみましょう。
【Nくんの場合】
英単語が完璧になったNくんですが、英語長文を読むことに対してはどうしても心のハードルがありました。これは、無意識のうちに時間割引率の影響で、「英語が出来なくても、他の科目でカバーできるだろう」と考えてしまい、なかなか手をつけられないのが原因でした。
ということで、「毎朝30分だけ英語長文を解く、そして夜寝る前は音読をする」ということを決めました。
最初は腰が重くてやりたくない時もありましたが、習慣化することで日常生活の一部に組み込むことができ、30分という限られた時間によって、今では高い集中力を持続して取り組み続けることができています。
【Iくんの場合】
Iくんは、非常に大きな目標を立てていたことで、途方もない道のりに心が疲弊している状態でした。彼もまた、時間割引率によって、大きな目標を自分ごととして捉えきれず、どこか他人事のような気持ちを抱えていました。
一緒に将来の大きな目標から、「5月までに鎌倉時代まで完成させる」「古文の知識は2週間で復習する」など、短期的かつ定量可能な目標にチャンク化(分割)していきました。
目標が身近で達成できる内容になったことで、Iくんの勉強速度や勉強の質が見るからに上がり、その短期目標を前倒しで達成する意欲さえも出てくるようになりました。
人間の脳は、毎日同じ時間に同じ行動を繰り返すことで、それを「習慣」として認識し、無意識に実行できるようになります。この習慣化のプロセスは、意志の力に頼らずに勉強を継続するための強力なツールです。
まるで歯磨きやお風呂のように、同じ時間・同じ場所・同じ行動を繰り返すことで、勉強から習慣に移行していきましょう。
また、数日~1週間単位で達成可能な具体的な目標を設定し、それをクリアしていくことで達成感を頻繁に味わい、自己効力感を得ることができます。
このように、定量的でわかりやすい目標を設定することで、自分自身でも勉強計画を管理しやすくなり、勉強へのモチベーションを下げることなく継続しやすくなるでしょう。
第2章−4:「損失回避」で勉強速度を加速する

第1章でもお話ししましたが、「やるなら完璧にしたい!」という高い理想は素晴らしい姿勢のように思えますが、完全主義バイアスに囚われると「できない自分は落ちこぼれだ」といった自己嫌悪に苛まれる危険がありましたね。
この完璧主義バイアスから脱却して、勉強の速度を加速させるためには、行動経済学や心理学で有名な「プロスペクト理論」の中で取り上げられている『損失回避の傾向』を逆手にとるべきでしょう。
損失回避の傾向…?
【「プロスペクト理論」の『損失回避の傾向』とは何か?】
プロスペクト理論とは、ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって展開された、「人間が不確実な状況下で意思決定を行う際の心理」を説明する理論です。
この理論の中心的な概念の一つに、『損失回避の傾向』というものがあります。
つまり、人は利益を得ることより、損失を回避する方が価値を感じやすいので、無意識のうちに損失を回避する手段や方法を選択してしてしまうというものです。
完璧主義バイアスに陥っている人は、この「損失回避」の傾向が強く働きすぎてしまい、「できない自分が許せない」という損失回避の行動が故に、逆に勉強する意欲が低下している可能性があります。
勉強で活用するときは、「完璧にやろうとして何もできないことの方が大きな損失である」という視点を持ってもらい、勉強速度を維持したままモチベーションを促進ことができます。
実際に、NくんとIくんはどのように取り入れたのでしょうか?
【Nくんの場合】
Nくんは、特に英語の英文和訳で、「間違えた問題を完璧に理解しよう!」と1問1問丁寧に復習していました。もちろん、そのこだわりのおかげで英語の学力が上がりましたが、その反面、必要以上に時間をかけ過ぎてしまうことが多々ありました。
そこで、プロスペクト理論の「損失回避」の考え方を踏まえて、「先に進まないと、目標とする学力に到達しない危険がある」ということを共有しました。
そこから、Nくんは「わからない問題はまとめて先生に質問するので、まずは復習を終わらせよう」と意識することで、徐々に勉強の停滞が解消されて、より多くの問題演習をこなせるようになってきました。結果、以前よりも英文和訳ができるように成長しています。
【Iくんの場合】
Iくんは知識をとことん追求して勉強する方針が合っていますが、それは同時に、勉強速度が落ちて受験に間に合わない危険性を伴ったリスキーな勉強法でもあります。
彼自身も勉強の進捗を意識していますが、プロスペクト理論の「損失回避」を活用して、「このままでは論述問題は冬になってしまうかも」という今後のリスクを先んじて伝えるようにしました。
その言葉を受けて、Iくんは勉強の質も速度も落とさない勉強法を模索するようになりました。この試行錯誤している経験は、夏以降の過去問演習を取り組むときに、さらに彼を大きく成長させるでしょう。
完璧を捨てるという言葉は、向上心のない意味に聞こえますが、「完璧にこだわりすぎて、その場から動けなくなる」というリスクを避ける勉強テクニックのひとつです。
「完璧じゃないけど、とりあえず前に進まないとヤバイ!」と認識し、完璧を手放す勇気を持つことが、勉強を加速させる力になるタイミングがあります。
第2章−5:他人と比べない「参照点依存性」からの解放

さて、第2章の最後です。ここで説明するのは、勉強する上で最大の敵である「周りの友達と比較したときに抱く劣等感」との戦い方です。
このような不安は焦りは、自分に合った勉強のリズムを乱し、ときにはモチベーションを下げて勉強自体のやる気を低下させてしまいます。
そして、多くの受験生が抱えるこの苦しみの背景には、「参照点依存性」という心理的メカニズムが深く関わっています。
【「参照点依存性」とは何か?】
参照点依存性とは、「物事の評価が、何と比較されるかによって変わる」という心理的な傾向です。同じ成績や努力であっても、比較する相手が異なれば、その価値の感じ方が大きく変わることを指します。
例えば、単元テストで80点を取ったとしても、友達が100点を取っていたら落ち込んでしまいますし、逆に、友達が60点だったら優越感を感じる現象が挙げられるでしょう。
人は社会性動物ですので、無意識のうちに周りと比較して相対的評価してしまいます。
では、この強大な敵に対して、NくんとIくんはどのように立ち向かったのか見ていきましょう。
【Nくんの場合】
Nくんは、医学部志望の周りの生徒たちが、どの科目もそつなくこなすように見えてしまい、特に苦手科目に対して強い劣等感を抱いていました。彼の参照点は「理解科目より文系科目ができる友達」だったのです。
なので、彼の参照点を「今取り組んでいる英語長文の得点率」という、相対的基準から絶対的基準へ意識的に変更しました。
最初は友達の動向が気になりますが、次第に友達の結果などに意識が向かなくなり、目の前の問題に集中できるようになりました。この集中によって雑念が消え、自分のすべきことに全力を出すことができたので、鹿児島大学医学部医学科B判定という結果に繋がったといえるでしょう。
【Iくんの場合】
Iくんは、インターネットで目にする東大に合格した人たちを無意識のうちに「参照点」にしてしまい、過度にプレッシャーを感じていました。そのせいで「自分は全然できていない」という意識が芽生え、自分の現状を過小評価していました。
このままでは勉強に支障が出ると考え、参照点を「以前の自分」に切り替えて、自分の成長を実感しつつ、メタ認知による自己分析に役立てることにしました。
その結果、周りと比較して落ち込むことが減り、焦りや不安から解放されて、勉強への意識が洗練されてきました。そして、この参照点の変更が、東京大学文科1類A判定に繋がった要因の一つだといえるでしょう。
勉強において、この参照点依存性の罠にはまりやすいのは、以下の2通りの参照点を持ってしまったときです。
・周りの優秀な生徒
自分より成績が良い友人や、憧れの志望校に合格した先輩を「参照点」にするのは要注意です。
比較対象が、「友人や先輩の成功」と「今の自分」となるため、自分の成長を過小評価してしまい、自分の努力や進歩が正しく認識できず、劣等感や焦りを強く感じてしまいます。
・SNSの不特定多数
現代社会において、SNSは参照点を歪ませる大きな要因です。
SNSは、他者の最も輝かしい成功だけが切り取られて発信される傾向がありますので、健全な比較が非常に難しくなります。
第2章-まとめ
第1章では、勉強する中で陥る様々な心理状態を5パターンについて説明し、第2章では、成績向上したIくんとNくんの実例をもとに、心理学を活用した具体的なテクニックについてお話しいたしました。
改めて、その具体的テクニックを確認してみましょう。
1.「メタ認知」による自己分析
「自分は何ができて、何ができていないのか」を客観的に知る
2.成功体験で「自己効力感」を向上
「自分はできる」という自信が学習性無力感を克服する
3.未来を今に引き寄せる「習慣化」
長期目標を分割して日常の生活のルーティーンに組み込む
4.「損益回避」を利用した勉強の加速化
完璧を捨てて先に進むことで勉強のリズムを崩さない
5.他人と比べる「参照点依存性」から解放
比較対象を変えることで不必要な劣等感や焦りを解消する
これらの心理学を活用したテクニックは、特別な才能を必要とするものではありません。
まずは、自分の心理状態が勉強効率に大きな影響を与えることを改めて認識した上で、少しでも日々の勉強に取り入れ、モチベーションや勉強の質を向上させていきましょう。
おわりに:自分の中にある「無限の可能性」を信じよう

ここまで、多くの高校生が直面する「勉強のつらさ」の正体を、心理学の側面から深く掘り下げてきました。
そして、その苦しみを乗り越え、学習を加速させるための具体的な心理学テクニックもご紹介しました。
今回のお話を通して、
自分の心理状態を少しでも理解して、気持ちが楽になりましたでしょうか?
また、お子様の心理状態を理解する一助になりましたでしょうか?
勉強は、確かに苦しいことの連続かもしれません。
しかし、その苦しい時こそが、自分と向き合い、人として大きく成長する絶好のチャンスだと思います。
今の自分を超えていけるよう、出来ることからひとつずつ進んでいきましょう。
「もっと早く相談していればよかった…」と仰られる方がとても多いです!







